蝉が
ただ一匹だけで鳴いていました
まるでアリアのようなその音は
そんなつもりもないだろうに
耳目を集める存在となっていました
残暑の曇り空に響きわたるその音は
真夏ならわかりようもないのに
今となっては
どこで鳴いているのかさえはっきりとわかって
そのことが
なんだか切ないような
思わず応援したくなるような感じさえしました
人の目から見ると
そのように感じるのですが
きっとたぶん
蝉からしたら
そんなことはまったく関係ないだろうな
とも思いました
ただ生まれてきて
土から出て
羽化した瞬間から
ただ自分のできること
したいことだけを
精一杯しているだけで
環境がどうだとか
仲間がどうとか
未来がどうとか
何ひとつ思いもしないのでしょう
人の世界にいると
将来の暮らしが とか
仕事がどう とか
今この瞬間を
どう生きるかよりも
あるかどうかもわからない先の時を思って
たくさんの選択に迫られることが多い気がします
もし
自分がこの世界に
たった一人の人だったら
そんなこと思いもしないだろうに
と思うと
仲間と思っている
たくさんの人という集団が
幻というか
見えるけれども
ただそれだけものかもしれない
とも思いました
よかれと流されてくる
種々雑多な情報や音に
耳を澄ます必要などなく
ただ一匹で鳴いている
蝉の音に
耳を澄ませたほうが
はるかに私の心の栄養になっていました
そんなつもりはないのでしょうけど
町中の草むらに
秋の虫の音を聞いて
見上げた木々の葉先に
少しずつ赤い色や
小さく固い実を見つけたりすると
残暑もこれで終わるのだなと
なんとなくしみじみします
みなさんの町はどうでしょうか?
いまは秋らしい
抜けるような青空と共に
金木星の香りを
心待ちにしています